臨床化粧療法と死化粧。最期のお顔はだれに任せる?
こんにちは、臨床化粧療法士®の渡邊明日香です。
前回の記事で、穏やかなお別れの時間には“最期のお顔”が大切とお伝えしました。
ところで、その大切な“最期のお顔”を任せられる人を、みなさんは具体的に思い浮かべられますか?
みなさんがご自身で化粧を施しますか?
お世話になった看護師さんにお願いできるでしょうか?
それともわたしのような湯灌/納棺に携わる専門職に依頼しますか?
死化粧をいつ/だれが行うかはそれほど重要ではないと思いますが、みなさんが希望するその人らしいお顔を実現するために知っておくと役立つポイントがいくつかあります。
葬祭の世界は初回が本番(父母の葬儀が初めての喪主など)であることも多いので、もしもの時に備えて前もって情報を得てご検討いただけると幸いです。
死化粧をしてもしなくても、後悔のない穏やかなお別れの時間を過ごせますように。
心からの祈りを込めて。
お別れまでに何度か行われる死化粧
看護師が行う死化粧
一般的な老衰の経過を辿った方や、加齢に伴う病気で亡くなった方々は、どこかの医療機関と関わりがあると思います。
(もちろん最期までかかりつけ医がおらず所謂「ぴんぴんころり」で亡くなる方もいますが、そうすると警察が絡んでしまったりするので詳しいことはまたの機会に)
病院であっても在宅であっても、医療機関には必ず看護師さんがいるはずです。
お看取りの当日まではもちろんのこと、亡くなった瞬間にその場にいてくれる可能性もある看護師さんは、亡くなってから最初にご遺体に触れる確率の高い存在です。
最近は多くの医療機関でエンゼルケアの一環として死化粧(=エンゼルメイク)を提供しています。
もし付き合いが長く信頼している看護師さんがいれば、エンゼルケアを依頼するのは一つの良い手段だと思います。
看護師さんが死化粧をするメリットは、亡くなってから比較的短い時間で死化粧を施行できること。
そうすると、肌の乾燥が進んでしまう前に化粧を施すことができます。
土台の肌が整っていることは、我々の化粧と同様に死化粧においても仕上がりを左右します。
なるべく早く保水/保湿した上で、顔色の変化が現れる前に化粧を施す。
葬祭業より早い段階でコンタクトが取れるからこそのメリットですね。
加えて、看護師さん達は亡くなる前の(=生きていた頃の)ご本人を知っています。
ここが、湯灌師や納棺師との大きな違いだと思います。
葬祭業の人間が目指すその人らしい死化粧には、ご本人のことをよく知っている方(ご家族など)の協力が不可欠です。
一方で関わりのあった看護師さんであれば、その人らしさを0から確認する必要がありません。
既に、その人を知っているのですから。
「ぜひこの看護師さんにお願いしたい」という場合は、ぜひご希望を医療機関に伝えてみてくださいね。
湯灌師・納棺師が行う死化粧
看護師さんが死化粧を行なっても行わなくても、葬祭業が介入した時点で死化粧(正確には葬儀社に死化粧をいうオプションは少なく、湯灌/納棺/エンバーミングなど)を行うか確認されると思います。
もしその時に湯灌や納棺を選んだら、わたしのような湯灌師/納棺師が死化粧も含めた儀式を担うことになります。
我々はご遺体のプロですから、顔色が変わっても、顎が下がって口が閉じなくても、傷があっても、基本的にはご依頼を断ることはありません。
少しでも元のお顔に戻るように、様々な手段を使ってその人らしいお顔を追求します。
看護師さんで対応が難しい状態の方ほど、まずは葬儀会社へ相談してみてください。
(ちなみに湯灌/納棺/エンバーミングなど、どのオプションを有しているかは会社によって異なっている為、事前に確認をお願いします)
その際にあると便利なのがご本人の写真です。
看護師さんと違って葬祭業の人間は“初めましてが亡くなった後”のため、ご本人がどんな人だったのか、少しでも多くの情報があると助かります。
化粧は視覚情報も多いため、言葉で伝えるよりも実物をご家族と共有できる方が実現度も高くなります。
大切な父母や祖父母の顔を「なんか違う」仕上がりにしてしまわないように、希望するお顔の写真は最初に担当者に見せてくださいね。
ブライダルなどのメイクと違って、打ち合わせなしで施行するのが死化粧。
火葬までの数日の間に湯灌師/納棺師に会えるのは、おそらく1回だけだと思います。
その限られた時間で希望を全て伝えなくてはなりません。
気になっているとこは必ず伝えてください。
「顔色が変わってしまった」
「どうしても口を閉じてほしい」
「なんとなく表情が不自然に感じる」
なんでも構いません。
目の前に対応できる人がいる時に、必ず困っていることを伝えてくださいね。
ご家族が行う死化粧
専門職に死化粧を任せることは、困り事を解決する手段としては良い方法だと思います。
それでも、もしみなさんに化粧をしたいというお気持ちがあって、それが可能な状況なのであれば、ぜひみなさんの手で最期の化粧をしてください。
本当に大切なことは、仕上がりが完璧であることではありません。
遺されたご家族が、旅立つご本人と穏やかな最期の時間を過ごすこと。
それが実現できれば、化粧の腕前は問題ではありません。
特別な化粧品も必要ありません。
ご本人が気に入って使っていたものがあれば、ぜひそれを使いましょう。
その人が、最後までその人らしくあれるように。
そのお顔を見て、ご家族が安心してお別れができるように。
ただ、それだけなのです。
おわりに
どんな方にも、最期の瞬間はやってきます。
地位や名誉は関係ありません。
どんなに善行を積んでいても、現世での命には限りがあります。
その必ず訪れる最期のお別れを、もうだれにも後悔させたくない。
約1000人のお見送りをお手伝いしてきたわたしが、切に願うことです。
今日もどこかで最期のお別れを迎えているあなたの心が、どうか、穏やかでありますように。
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