アピラボbyメーキャップラバーズ

死化粧と最期のお顔、穏やかなお別れのために

最期のお顔を覚えていますか?

 

こんにちは、臨床化粧療法士®の渡邊明日香です。

 

突然ですがみなさんは、大切な人を見送った経験はありますか?

 

その方の最期のお顔を覚えていますか?

 

どんなお顔だったでしょうか?

 

綺麗でしたか?

 

苦しそうでしたか?

 

痩せてしまったなと思いましたか?

 

無や恐怖を感じたでしょうか?

 

いつもと変わらない優しさで溢れていましたか?

 

わたしは化粧を生業にしてきましたが、例えば穏やかな最期の時間を過ごせるように、わたし達にできることはあるのでしょうか?

 

湯灌師が行う死化粧

 

わたしは2019年から3年間、湯灌師として勤務していました。

 

湯灌とは、亡くなられた方の最期の身支度をお手伝いする仕事です。

 

洗髪洗体、お着替え、そしてご納棺。

 

棺にご移動する前に、最期にお身体に触れる大切な儀式です。

 

その一部分として、わたしは死化粧も担ってきました。

 

死化粧はエンゼルメイクと呼ばれたりもしますが、厳密な規定はなく、亡くなられた方に施す化粧のことをざっくりと指しています。

 

わたしのような湯灌師/納棺師が行うこともあれば、看護師さんが病院で行ったり、その両方もあり得ます。

 

いつだれが施すかに関係なく、死化粧はその人の最期のお顔となります。

 

とても、とても大切なお顔です。

 

この先、遺された人たちが何度も思い出すかもしれない、決して二度目の対面は訪れない最期のお顔です。

 

わたし自身も亡くなられた方に化粧を行う際は、わたしなりに責任と覚悟を持って臨んできました。

 

どれだけ経験を積んだとしても、これだけは忘れずにいたいなと思っています。

 

なんのための死化粧?

 

ではなぜ、わたしのような職種の人間が亡くなられた方に化粧をする必要があるのでしょうか?

 

亡くなられた方の身体状況は、時間と共に変化し続けます。

 

もちろん、元々のご病気や温度などの環境要因に左右される側面もありますが、亡くなってからより良い状態になることは残念ながらみなさんないでしょう。

 

ご生前を100とすると、時間と共に90、80と状態が低下することは避けられません。

 

化粧に関わる一番わかりやすい例は、顔色の変化でしょうか。

 

顔面蒼白・黄疸・鬱血など、挙げればいろいろありますが、総じて”変化”が生じています

 

この”変化”をなるべくわかりづらくするのが、死化粧の役割です。

 

顔色の変化をカバーするのはもちろん、眼球や唇の乾燥を防いだり、自歯があるかのように整えたり、傷跡を隠したり。

 

起こり得る”変化”の影響を最小限に留めること。

 

それこそ、死化粧の役割だとわたしは思っています。

 

誰のための死化粧?

 

では一体だれのために、わたし達は死化粧をしている(或いはしてあげたいと思っている)のでしょうか?

 

亡くなられた方ご本人のためであることは、間違いないと思います。

 

大切な人を思って、死化粧をご依頼いただいていることに疑問の余地はありません。

 

だけどわたしは、亡くなられた方の外見を整えることは、遺された側のためである比重が大きいと思っています。

 

わざわざ言葉にするまでもありませんが、亡くなられた後にご本人の意志確認が出来ない状態だからです。

 

確かに、中にはご生前に葬儀関連の全ての手配を済ませる方もいらっしゃいます。

 

それは、とても素晴らしい心掛けだと思います。

 

出来ればわたしも、家族が困らないように全て準備してから逝きたい。

 

けれど死化粧は、祭壇の花飾りや棺の種類と違ってその場その時にならないと決められないことばかりです。

 

どれくらい顔色が変わるか、わかりません。

 

どれくらい痩せてしまうか、わかりません。

 

希望していた口紅が、綺麗に発色しない状態になる可能性もあります。

 

もしかしたら、死化粧なんで必要ないくらい自然なお顔を保っているかもしれません。

 

死んでみないと、わからないのです

 

だから死化粧を施す際にわたし達が意見を伺うのは、遺されたご家族さんが基本となります。

 

「いつもと比べてどうですか?」

 

お洒落のための化粧ではないからこそ、わたしが大切にしてきた質問です。

 

ご本人にいくら問いかけても、残念ながら答えは返ってきません。

 

ご遺体を外から見たご家族さんがどう感じていて、どうしてほしいのか。

 

死化粧が頼りにできるのは、いつも側にいた方々の言葉だけなのです。

 

穏やかな最期の時間を過ごせるように

 

仕事として亡くなられた方に出逢う時、わたし達はその方の生きていた時を知りません。

 

いつものお顔がわからない状況で、ご家族さんに何度も質問を繰り返すのは、安心して最期のお顔を見つめてほしいからです。

 

 

きちんと顔を見て「ありがとう」と「またね」を伝えられるように。

 

 

わたし達はご遺体に触れ、(時には生きている人間には絶対にしないような)処置を施します。

 

たった一度しかないさよならの時間を、いつか振り返った時に、微笑みながら思い出せるものになりますように。

 

そう願いながら、わたしは今日もご遺体の前に立っています。

 

おわりに

 

3月に、JCTAの公開講座にて講師を担当させていただきます。

 

わたしなりの死生観や、わたしが想うアピアランスケアについて、より深くお話をいたします。

 

皆さまのご参加をお待ちしております。

 

2023年3月JCTAオンライン公開講座開催のお知らせ

 

この記事を書いた人

渡邊 明日香

臨床化粧療法士®/社会福祉士/精神保健福祉士
関西学院大学人間福祉学部社会学科卒。在学中より福祉・医療施設にてメイクやセラピーの提供を開始、これまで約400人の高齢者・障がい者と美容を楽しむ。2019年より湯灌師として約1000人の最期の身支度に携わり、エンゼルメイクの講師業にも精力的に取り組んでいる。

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