アピアランスケアと臨床化粧療法の関係性
臨床化粧療法士®の河村しおりです。
実は私は、いち患者として、20代のはじめから、おおよそ四半世紀もの期間、治療の副作用による外見ケアを必要としてきた立場でもあります。
当時、婦人科系のがんは幸い早期で、手術で処置が出来ましたが、私の人生の根本を揺るがせる病気の名前、病名は「全身性エリテマトーデス(SLE)指定難病49」です。
がんよりも、別の病気の治療が原因で、脱毛や皮疹や肥満など、見た目に大きな変化を抱えながら生きてきました。
これをケアする専門分野があり、それがアピアランスケアと呼ばれていると知ったのは、7~8年前のこと。
個人的には、つい最近といった感覚です。
そんな私が、なぜ、臨床化粧療法に必要性を感じ、その啓蒙活動に人生をささげるに至ったのか、今回はその辺りに触れてゆきたいと思います。
現在も毎月のように入退院を繰り返す中、言わば満身創痍なそのわけを綴ります。
外見変化をもたらすのは、がん治療だけなのか?
つい先日、こちらのニュースを目にしました。
がん治療での外見変化、支援拡充/共同通信 2022/10/24
非常に良い流れですよね。
もっともっと拡充してゆくことを切に願います。
と、同時に、少しだけ心にざらつきを感じます。
つまり、アピアランスケアを必要とするのはがん患者さん…だけ?
私は、前途の患者経験に加えて、臨床化粧療法士®としての経験上、少なくともそうではないと感じています。
例えば、つい先日、こちらのコンテンツに寄稿した義眼の患者さんの例もその一つです。
治療だけですらない、アピアランスケアの必要領域
不本意で理不尽な外見変化というのは、先天性後天性を問わず、様々な病気や、事故や火傷などのアクシデントなど、全身的で、多岐に渡ります。
また、リストカットやタトゥーなど、過去の痕を目立ちにくくしたいという気持ちを補うのも、アピアランスケアであると思います。
私たち臨床化粧療法士®が対峙することの多い領域です。
一方で、がん患者さんだけの外見変化に目を向けた場合も、部位別、症状別で見た目を補完するための領域や程度は、非常に幅広いものがあります。
「がん患者に対するアピアランスケアの手引き 〈2016年版〉/国立がん研究センター」が、昨年10月に改版されました。
「がん治療におけるアピアランスケアガイドライン 〈2021年版〉(第2版)/日本がんサポーティブケア学会」
「臨床で活かす がん患者のアピアランスケア/野澤 桂子」と併せて、ぜひご参考ください。
アピアランスケアと一言で言っても、単純にウィッグやメイクで補えるものではないのがよく解りますね。
アピアランスケアは誰のためのもの?
私はどうなってもいいの。ただ、私を見た人に嫌な思いをさせたくない。
カウンセリングでよく聞くセリフです。
本当にそうなのでしょうか…?
ご自身を見た人が嫌な思いをしたかどうか、本当のところはわからないはず。
だとすると、「誰かに嫌な思いをさせている」という気持ちに「自分自身」がなりたくないということ。
つまり結局は、「どうなってもいい」わけがなくて、「外見変化のせいで自分が傷ついている」ということになるのかもしれません。
私の普通って、ここまでしないと保てないのかってショックだったんです。
思い切り勇気を振り絞って、ある化粧品メーカーの専門窓口でカバーメイクのご相談をされたそうです。
その時の気持ちを語ってくれました。
ウィッグの相談、メイクの相談、勇気を出して行ってみた!というお話しをしてくださる方は割と多いです。
私たちは、医療機関への外部協力や、個別相談などを通じて患者さんの声を聴いていますが、もしも、そこで満足のいく結果であれば、このカウンセリングには至っていなかったのかもしれない…と思うと少し複雑な気持ちです。
臨床化粧療法は化粧を介した心理療法
前途の共同通信の記事の様に、アピアランスケアの仕組みが整ってゆくことは大きな希望です。
ですが、私たち臨床化粧療法士®は、何らかの理由でそこに手の届かない方や、さらに心を閉ざしてしまった方々に目を向けながら、その受け皿的な存在になるべく、日々活動を続けています。
患者さんが見ている景色って、どんな風だと思いますか?
「どんなスタイルをご希望ですか?」と何気なく聞かれる事がどれほどショックか…
「どんなって…治療に入る前の姿に戻れればそれでいいんだけど。」と、心の叫びが聞こえて来るかのようです。
外来の片隅にあるウィッグやケア帽子のパンフレット。
医局の売店に置かれたかつら。
良かれと思ってなされている、世の中の何気ない、さまざまな要素は、少しずつ患者さんの心を傷つけているかもしれません。
その方の在りたい姿の探索を手伝い、その実現に向け寄り添い、それを自分でできるように指導する。
まずは患者さんの心の在りかを探すこと、それが、私たち臨床化粧療法士®の基本のお仕事です。
昨今は、患者さん自身が開発した商品や、病院独自の取り組みなど、非常に興味深い試みが増えてきているようです!
個人的にも、こういったニュースはすごく励みになるというか、心強いです。
アピアランスケア啓発の難しさ
アピアランスケアを啓発するうえで、困難な局面は数多くありますが、一番大きな壁は、ずばりこれだと思っています。
商品が伴うこと
ウィッグ、メイク、スキンケア、ネイルケア、いずれにせよ、ほとんどすべての関わりにおいて、アイテムが介在します。
美容相談をしようとしたとき、普段であれば心強いはずの大手化粧品メーカー名。
患者になったとたん、名乗られると怖いと感じてしまう。
買わされそうで怖い。
うまくできないから怖い。
寄り添おうとしてくる姿勢が怖い。
アピアランスケアを必要とされる患者さんにとって、担当者の免許や所属は、あまり関係ないように思います。
どちらかといえば、知識や経験、人柄の方が重視されるのではないでしょうか。
いずれにせよ、ワンクッション必要であるというのが、私が一療法士としても患者としても感じることでした。
臨床化粧療法士®は、あえて、商品販売を目的としない、アピラボという活動に重きを置いています。
「アピアランスケアをもっと身近に」をテーマに、病気や怪我だけではなく、エイジングケアやメイク方法など、もっと身近なビューティーケアを、公共の場などで啓発する取り組みです。
病気が、傷痕が、ではなく、生きていく中で、見た目に悩んだ時に、普通に相談できる場所。
まずは、今お手持ちのアイテム(化粧品やウイッグ)を確認しつつ、今一度使い方を一緒に見直してみて、必要であれば、商品購入をサポートします。
安心できるワンクッションになりつつ、必要に応じて専門各所にお繋ぎしてゆけたらと思っています。
さいごに、臨床化粧療法士®がお伝えするウィッグ選びのポイントについての記事をご紹介しておきますね!
ここまでお読みいただき、ありがとうございました。
【参考】
難病情報センター・© 一般社団法人共同通信社
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